"ADIDAS(アディダス)" の膨大なアーカイブに敬意を払い、キュレーター "GARY ASPDEN (ゲイリー・アスプデン)" 氏の情熱によって現代に再解釈される特別ライン、"SPEZIAL (SPZL)"。その哲学は忠実な復刻に留まらず、異なるモデルのパーツを組み合わせるハイブリッドな手法で、「どこか懐かしいが見たことのない」一足を生み出し、熱狂的なファンを獲得してきた。
しかし、2025年秋冬コレクションにおいて、"SPZL" チームは最大のチャレンジに直面する。それは、コレクションに不可欠でありながら、最も革新が難しいカテゴリー、「ロープロファイルなスエード製トレーナー」の新作であった 。"アスプデン" 氏が「既存スタイルの焼き直しではない形で提供するのは大きなチャレンジだ」と語る通り 、無数の定番モデルが存在する中で "SPZL" ならではの差別化を図ることは容易ではなかった。
この難題に真正面から取り組んだ末に誕生したのが、クラシックなコアブラックの装いをまとった "MÜNCHEN II SPZL (ミュンヘン II SPZL)" である。そのミニマルな外観とは裏腹に、開発は一度の「仕切り直し」を経る苦難の道だった。開発の出発点は、アディダスの倉庫に眠っていたある未発表のアーカイブモデル 。それは"MONTREAL '76 (モントリオール '76)"に似たラバー製ヒールラップを持つ、バーガンディ色のスニーカーであった。しかし、このアーカイブに着想を得た最初のサンプルは、"アスプデン" 氏の「秋冬コレクション全体にマッチしない」という判断により、プロジェクトは開発途中で白紙に戻される。限られた期間での再考を迫られたチームは、まずベースカラーをシーズンに調和するブラックに変更 。さらに、アーカイブではシンプルだったつま先に、新設計のTトゥ型オーバーレイを配置し、伝統的なトレーナーの顔つきに新鮮なディテールを加えた。
そして、チームは最も大胆な決断を下す。それは、初期案の核であった「ラバー製ヒールラップ」の完全な廃止であった。このヒールラップは、確かに個性的だが「好みが分かれる」要素でもあり 、"アスプデン" 氏らは「このままゴムのヒールパーツを付ければ意見が分かれるだろう」と判断し、それを思い切って取り外すことを決断した。その代替として採用されたのが、ヒール部に配置したスエード素材のオーバーレイと、装飾的なステッチである。ラバーを使わずともヒール周りに表情を持たせることで、元のアイデアのヴィンテージ要素を残しつつ、よりシンプルで幅広い層に受け入れられる洗練されたルックスを完成させたのだ。
完成した一足には、"SPZL" らしい執拗なまでのこだわりが詰め込まれている。ミッドソール側面のフォクシングテープは単なる黒ではなく、深い型押しパターンを刻んだテクスチャード仕上げ。シューレースにはヴィンテージシューズの雰囲気を高めるコットン製の平紐を採用している。シックなブラックのアッパーに対し、シュータンには鮮やかな青色の織りラベルを配置。これは "アスプデン" 氏が「ケーキの上に載せたチェリー」と表現する、強烈なアクセントだ。ゴールドの箔押しで刻まれた「München II SPZL」の文字は、過去の都市シリーズへの敬意と、「第二のミュンヘン=新たな解釈」であることを示している。アーカイブへのリスペクトから出発し、一度は仕切り直しとなりながらも、「定番」の枠を超えるために大胆なデザイン変更を決行した "MÜNCHEN II SPZL"。それはまさに、"SPZL" の理念である「過去への敬意と未来への提案」を体現した一足と言えるだろう。
日本国内では2025年11月6日にアディダス オリジナルス取扱店にて発売予定。価格は19,800円 (税込)。また新たな情報が入り次第、スニーカーウォーズのXやFacebookなどで報告したい。













